バイク模型はその1/12というスケール感から大変リアルな組み上がりが楽しめますが、そのまま組んでちょっと悩んでしまうところがチェーンです。
プラモデルという性質上、実際のチェーンのようなプレートとパイプを1/12サイズで再現することはまず不可能。
世の中には金属製チェーンの改造パーツもありますが、いかんせん高いし専用品ではないのでマッチングやスプロケットをどうするか問題も出てきます。
実は汎用改造パーツの導入は結構難しいのです
ではどうしましょうか?
彫ってやりましょう!
というワケで今回はキットのチェーンパーツに穴を開けて実物同様のリアルなチェーンを作る方法をご紹介!
適切な工具と長い時間と強い根性があればできます!
今回の加工紹介に使用するキット
今回はタミヤから新しく発売された「ホンダ CBR1000RR-R FIREBLADE SP」のキットを例として使用します。
当ブログでもキットの箱紹介から製作記録を徹底解説しているのでぜひ見てください。
それでは工作に入っていきましょう。
ステップ1:治具の製作
まずは確実なチェーンの穴あけをするために加工用の治具を作ります。
正直コレが一番手間と技術が必要です。
まずノギスを使って加工するチェーンの厚みを測ります。
チェーンの厚みを測る場合はチェーンのリンクピン(両側面の丸い出っ張り)を含めた全体の幅を測定してください。
今回のチェーンの厚みは1.9mmでした。
最近のSS(スーパースポーツ)車のプラモはチェーン厚があるので穴あけ加工はしやすいです。
古いバイクなどでチェーン厚みが1.6mmを下回ってくるような場合は加工の難易度と強度の維持が厳しくなってくるので気を付けてください。
ちなみに僕は上の写真のようにアナログのノギスを使っていますが、最近は安いデジタルノギスがAmazonで売られているので見易さや測定スピードの点から導入をお勧めします。
最近はこの手の計測器の精度や作りも良くなっていますし、模型の用途であればJISマーク付きノギスのような精密な精度は不要ですからね。
さてチェーンの厚みは1.9mmでした。判明したところで治具製作に入っていきます。
0.3mmのプラ板を切り出しドリブンスプロケット側の外形に沿う形状のプラ材を作ります。
上の写真の左側が使用する部材です。
右の写真のようにタミヤのメモリ付きマスキングシートを使用してスプロケットの外形を測ればやりやすいです。
パンチコンパスを使って幅1~1.5mm程度の太さで円状のプラ材を切り出します。
チェーンが載せられる大きさに切り出したプラ材(土台とします)の上に、先ほど作った円状のプラ材を半分にしてスプロケットの外形ピッタリになるように接着します。
スプロケットの外形にぴったり合うよう丸みを調整して速乾流し込み接着剤で固定しましょう。
スプロケットに沿わせるためにプラ材を半分(半月形)にしましたが、残った半分は最初に貼った半月の上に重ねて厚みを0.6mmにしておきましょう。
続いて0.3mmのプラ板を先ほど作ったプラ材の幅と同じ1mm~1.5mmに切り出します。
写真のT字定規はプラ材をカットする時に精度よく直角が出せるとWAVEのT定規です。
今は廃盤になっているのかあまり見かけませんが、もう少し良いものがモデラーズより販売されています。
切り出したプラ材を今度はチェーンに沿うように貼り付けていきます。
ここもチェーンを置いてからプラ材をチェーンにそっと当て、プラ材がチェーンにしっかり沿うように貼り付けます。
流し込み接着剤を流しすぎてチェーンをくっつけないように気を付けましょう。
このガイドはチェーンの上側と下側両方から挟み込むように貼り付けます。
ここも先ほどのスプロケ部のガイド同様に0.3mmプラ板を2枚積層して作ります。つまり直線のプラ材は8本(外側用の長い物4本、内側用の短いもの4本)切り出してください。
接着剤が乾燥したらガイドの外周部に合わせて土台をカットして治具の完成です。
治具の接着強度が不安な場合はこの状態で流し込み接着剤を軽く流しておくと良いでしょう。
これにて治具は完成。
上の写真のようにパチッとはめ込んで使います。
先ほどチェーン厚みが1.9mmとしていましたが、0.3mmのプラ材は0.3mmよりわずかに厚いようなので積層すると0.7mmくらいになります。
チェーン厚み1.9mm – 治具厚み0.7mm=1.2mm
チェーンの隙間開口を0.5mmで行えば1.2-0.5=0.7となり丁度中央に開口が行えることになります。
この治具は再利用できるので同じキットを複数製作する場合でも1個用意しておけばOKです。
では治具も完成しましたのでいよいよチェーン加工に入っていきます。
ステップ2:ローラー部の落ち込みの製作
まずはチェーン中央部の落ち込みを部を彫っていきます。
上の写真でいうところの②と④の間に生じている段差です。
治具にパーツを押し付けながらクレオスのラインチゼル幅0.5mmを使ってガイドにそって彫っていきます。
彫る深さは0.2~0.3mmあれば十分です。
外側全体と内側全体を満遍なく彫り込んでいきましょう。
ラインチゼルは純正のホルダーだと刃物の出具合が調整できずやりにくいので、三菱鉛筆のユニホルダー2mmを使えば作業しやすい上、純正ホルダーより安上がりです。
というわけで加工ができました。シルバーのパーツなので加工しているところが全然分かりませんが、よく見ると真ん中に一本線が入っています(笑)
ステップ3:ローラー間の穴あけ
続いてローラーとローラーの間の隙間を開けていきます。
上の写真でいうところの③の間です。歯車の歯が噛み込むところですね。
先ほどラインチゼルで彫った幅と同じ径のドリル(今回の場合は0.5mm)で上の写真のようにリンクピンとリンクピンの間、プレートのくびれている部分に穴を開けていきます。
チェーンは治具にセットし、ドリルを治具に当てるようにして穴あけすれば先ほど彫り込んだ部分と同じ個所に同じ径の穴を開けられます。
両端のドライブ&ドリブンスプロケットの部分はスプロケの歯がチェーンに噛み込んでいるので開けてはいけません。
開け終えました。
ステップ4:ローラーの彫り込み
チェーンのローラーはパイプでできていますので、先ほどの加工では穴が開いただけでパイプのような見た目になっていません。
ここは最初の溝彫りに使ったラインチゼル(今回は0.5mm幅)を用いて、先ほど開けた穴を拡張しつつローラーっぽく彫り込んでいきます。
チゼルの歯を穴に向かってグイっと押し込み穴を広げた後に、削れて押し込まれたカスを掻き出すよう取り除きつつローラーの丸い部分を削って再現していく感じです。
チェーンを折らないように気を付けましょう!
上手く彫れるとご覧のように丸かった穴が四角くなり、まるで本物のチェーンのような隙間が出来上がります。
この彫り込み加工めちゃくちゃ難しくないですか?
SNSでこの作業を公開したところ何名からこんな質問を頂きました。
実は簡単なんです。
今回の加工に使っているラインチゼルですが、上の写真のように刃の部分が半月状にえぐれています。
この形状のおかげで先ほど開けてた穴にチゼルを押し込むだけでローラーの丸い部分のほとんどが再現されてしまうのです。
押し込んで穴を広げたら自然と丸みを帯びた形状になるので、ちょっと仕上げてあげればキレイにローラー状のモールドが彫れます。
そもそも塗装や汚しを入れると多少の加工のアラは気にならなくなるのでご心配なく
ステップ5:スプロケットの噛み込み部の再現
スプロケットの歯がチェーンに噛み込んでいる部分も再現します。
ここは地味に効果的ですよ!
先ほどまで穴を開けていたガイドローラー間にラインチゼルを一発突き立てます。
刃先を強く押し込んでください。
チゼルはローラーのローラーの間に2回突き立てればローラー間に刃先が再現できます。
刃を突き立てたまま前後方向に少しぐりぐりするとより別パーツっぽくなります。
これにてチェーンの工作は完了です。
ミッション側のドライブスプロケットの歯は組み立てるとカバーで見えなくなるので加工は不要です。
今回のチェーン加工とは関係ないですが、ホイール側のドリブンスプロケットの歯の先端を少しだけ斜めにカットしています。これも結構見た目に聞きますよ!
ステップ6:加工時のケバ、ゴミとり
加工が済んだチェーンを眺めて見ると各部に作業で生じたケバやバリ、細かいゴミが付着していると思います。
一個一個処理するのは大変ですし、その作業でチェーンを折ったりパーツの形状を損なったりしてしまいそうです。
そんな時はクレオスのMr.カラーうすめ液をパーツに直接筆塗りしてみてください。
ちなみにクレオスのうすめ液と銘柄指定していますが、これはクレオスのシンナーは他社のラッカーシンナーに比べてプラパーツへの攻撃性が弱いためです。
ガイアの青いシンナーも同じような成分かもしれませんが、入手性と価格の面でもクレオスのシンナーがおすすめです。
ラピッドシンナーはダメですよ。
クレオスのシンナーは失敗した塗装を剥がしたりメッキパーツ上のクリアーを剥がしたりするのにも便利です。
僕はこのシンナーは塗装剥離や清掃用途でのみ使用して塗装には一切使っていません(笑)
ステップ7:サフ吹きと塗装
加工が完了したらサフを吹き状態を確認してみましょう。
キットのままよりも確実に見た目が向上していることが分かりますね~!
1パーツだったチェーンがまるでディティールアップパーツを導入したようになりました。
手加工による工作でしかも一箇所0.5mm幅の加工です。
写真で見ると少々の粗があっても実物をみると目を凝らさないと分からないレベルです。
先ほども書きましたがメタリック塗装で仕上げると細かいアラは目立たなくなるので心配なく。
塗装して仕上げてみました
加工したチェーンを塗ってみましたよ。
正面からだとイマイチ加工の効果が分かりませんね…(笑)
では上から。
チェーンの部分は塗装後タミヤのスミ入れブラックでウォッシングしてオイルのような汚れ感やモールドの立体感を出しています。
加工時の粗も塗ってしまえば全然気にならないと思います。
ウォッシングをするとリアルになりますが、加工したチェーンが折れやすくなるので要注意。
事前にサフを厚めに吹くなどして対策してください。
チェーンを組んだスイングアームをフレームに組付けたところです。
めちゃくちゃリアルでうっとりする…
手間はかかりますが非常に効果の高い改造です。
金属製組みチェーンも大変リアルですが、チェーンのみ金属製だとシャープすぎるため見た目がチグハグしたり、対応スプロケットがなく困ってしまったりするのですが、プラチェーンの加工であればマッチングの心配もなく、プラ製のため見た目の違和感にもつながりにくいです。
一度コツをつかむとそれほど難しい工作ではないことが分かると思います。
むしろ必要なのは良い工具と時間と根気。
効果的な加工なので皆様もぜひ試してみてください!!
本Howtoを利用したキットの製作記はこちら
解説に使用したCBR1000RR-Rのキットで実際にこのチェーンを組み込む製作記はこちらです。
製作レビュー記事一覧はこちら
こちらはそのキットのアクセス用まとめ記事になります。